「電流爆破は初めてですの」

温子は珍しそうに周りを見渡す。

「スイッチオフにしてるから今は触れても平気だけどね、触ってみたら?」

淳子は挑発ぎみに言う。

 

「そうですねぇ。そうでないとリングにこうやって上がる事も出来ませんし……どういう仕組みなのか気になりますわ」

 

そう言いながら温子は背中をロープにもたれかけて体重を預けてグイングインとしならせて遊んでいる。

 

「もう試合が始まっていたらどうする?」

嫌な笑みを淳子が浮かべた瞬間、ロープは爆発を起こした。

 

ドゥン!

 

煙を噴出し、温子の体は前へはじき飛ばされた。

 

そのまま座り込む温子の背中から血がダラダラと垂れており痛々しい。

 

「フェアじゃないけどさ、新人には意地悪したくなっちゃってね、痛いでしょ?」

 

「いえ? 全然?」

温子は立ち上がって構えた。

背中からまだ煙がモワモワとあがっている。

 

「つまんねえ奴だねアンタ」

淳子は見下すような目をしていかにも白けたような言い方をする。

 

だがそれを無視するように温子はグローブで体をパンパンと払っている。爆発する時点で粉塵のようなものが付着するらしい。

「汚れますね、これ」

 

「……さっさとくたばらせようかな」

あくまで主導権を握ろうと淳子は威嚇するように言う。だがなかなか自分のペースに温子ははまらない。

(珍しく肝の据わった新人だねぇ)

 

「くたばれ」

一言言うと淳子は温子に襲い掛かった。

 

「いいかッ! どのようなパンチも自由ってことはこういう使い方もあるんだよ!」

淳子は掌底のように手のひらを当てる。いわゆる押し出すようなパンチを打ち、ガードをしつつも当たった温子は後方へ押された。

 

「なるほど。こういった形で鮫嶋さんは押されていたんですね。体験しないとわからないものです」

 

「それだけじゃない」

淳子は掌底を素早く温子の頭目掛けて打ち込んだ。

 

「脳を揺らすのに効果があってな。これとのコンボで押し出すって形。クラクラするでしょ?」

(聞こえてないか。モロに食らったし頭にピヨピヨとヒヨコでも飛んでる……か)

 

「はっ!」

ノーガードの温子のボディに掌底が決まった。

体をそのまま吹き飛ばされロープへ。

 

ドォン!

 

煙があがりどうなっているかリングの上がよく見えなかったが、徐々に煙が薄くなり、うずくまっている温子が見えた。

背中に累計二発の爆発。背中からの出血は酷くなり、ダラダラと血が流れ続ける。

 

「ふう、ダメージとしては大きいようですね」

温子はそう言いながら立ち上がった。

 

(こいつ、怖くないのか? 痛くないのか?)

淳子は少し困惑した。

自分が新人の頃には思い出したくないような爆発の連続を食らっていた事を思い出し不思議に思う。

 

「骨法の掌底ですか……有効的ではありますね。実践ではグーの方が戦術的に良いのですが、なかなかいいコンボです。脳を揺らしてから押す。考えましたね」

よくやったとでも言いたいように温子は冷静に話した。

 

「もう一発で出血がえらい事になるから終わりかな? ウンチクお嬢さん」

淳子は試合を終わらせてしまおうと少し変わった構えをとった。

そして今度は温子の頭の横合いへ掌底を打ち込んだ。レベルの高い業で頭部を揺さぶるにはかなり効果が出る。

その反動でクルリと温子の体が回転して背中を向けた。

(顔面をロープにぶつけるってのも面白いな。この新人、一発でこの世界から姿消すな)

「はっ!」

ドゥッ! と掌底が温子の背中に叩き込まれ、自ら突っ込むように温子はロープへ顔面からぶつかり、爆発を起こした。

 

「終わりっと」

淳子は煙が引くのを待った。

 

だが煙が消えるより前に、おでこを抑えながら温子が歩いてくる。

「おでこやられちゃいました」

額から血を流し、顔を赤く染めている。

 

「まあ大体掴みましたから」

 

「何を掴んだ? 血だるまで余裕持って話してるヒマは無いんじゃない?」

しぶといなと淳子はイライラしていた。

「まあ、余裕だと思って下さい」

 

イラッとした淳子は再度、同じ攻撃を試みるが……」

放った掌底はスルリと温子に回避され、その後すぐに温子の掌底が淳子の胸を打った。

「ごほ……」

 

「回転打ち。骨法使いならマスターしておかないといけませんね」

 

「骨法使い? お前……」

 

間髪入れず温子は両手で淳子の頭、そして胸に同時に掌底を叩き込んだ。

「これが二連掌です。使えますか?」

 

(こいつ、骨法使えるのか)

下手に押されるより淳子は自分が後退する事を選んだ。ロープに背中が近くなるがそれははじき飛ばされた場合のみだ。

 

「ボクシングなんですから、やっぱりボクシングやりましょうよ、ね?」

温子はにっこりと血塗れの笑顔を作る。

 

「くそっ!」

「言葉が汚いですね。いけませんよ?」

 

「くそったれ!」

淳子はボクシングスタイルで温子に殴りかかった。

 

が、途中で止まった。

温子がガックリ方膝をついたからだ。

「ああ、血が思った以上に体から抜けたようですね。フラッと……」

 

「は、はははははっ!」

淳子は思わず笑ってしまった。ペース運びは必要無い。三度の爆発で血を失っていく温子にはただ殴るだけ。それだけで良かったのだ。

 

「まあ、運が悪かった。修行して爆発マッチにもゆっくり慣れていきなっ、今すぐ楽にしてやるから」

 

「ええ、それより淳子さん、とてもいい」

 

「は? 頭おかしくなった?」

 

「いえいえ、とってもいいんです」

方膝をついた状態から鋭く、正確に真っ直ぐ温子のパンチが下から突き上げるように発射された。

 

グシャァッ!

 

淳子は顎を跳ね上げられ、血を天井に向けて吐き出した。

 

「あなたの位置の話ですよ……。よっと」

温子は立ち上がり構える。