「かはっ! かはっ!」

淳子はのけぞりながらも倒れること無く前かがみになりひたすら咳き込んだ。血がポタポタと垂れる。それを見ながら薄笑いを浮かべているがどうやら自虐的な意味では無い様だ。

 

「クリーンヒットだけどあまり威力無いね。そろそろ血がいい具合に抜けてドクターストップがかかるのかな?」

 

「それは困りましたわ……」

優子は首を傾げて何かを考えている。

 

実際、精神的に追い詰められているのは淳子の方だった。

(バケモンだろう……二発背中を爆破されて何でケロッとしてんだ……早くドクターストップかかれよ!)

 

「あー、血が抜けているからでしょうか、少しずつフラフラと」

優子がよろけた。レフリーが様子を見に駆け寄ると、優子はスルリとレフリーをかわした。

 

「酔拳なんてどうでしょう、フラフラなんで」

 

さすがに淳子は笑った。映画でしか見たことの無い酔えば酔う程強くなるものだ、酔っ払いのような動きでトリッキーに戦うものだが、そもそもボクシングと酔う拳の組み合わせ自体、聞いた事も見たことも無い。

 

「あら、実在しますのよ? お酒は本当に飲むものじゃないですがね」

 

「一生やってろ」

淳子は突進した。映画のように寝転んでスリップアウトでもとられるがいいさと思っていた。

 

現実、淳子の出す攻撃はどのパンチをどのように出そうとも当たらない。ボクシングのスウェイとは少し違う動きで柔軟にかわされる。

「お前……」

淳子は一歩引いて額の汗をぬぐった。

「ええ、私はほとんどの武術のファイティングスタイルをボクシングに取り込む。それが基本スタンスですわ」

 

「だが、出血しながら動いて何の意味が有った?」

淳子は次第に温子のやっている事がわからなくなって来た。

 

「防御は攻撃に繋げる。これがモットーですわ」

 

「あ」

 

淳子の背中にロープが迫っていた。

 

「はい、どーん!」

温子が両手で普通に淳子を押しただけで淳子はフラフラとロープへ……。

ドーン!

 

爆発が起き、煙が吹き上がる。

 

その中、温子は煙の中へ突っ込んでいった。

 

 

ドォォォン!

 

間髪いれず再度、ロープが爆発した。

 

煙がある程度薄くなると倒れた淳子、首をコキコキと仁王立ちでそれを見下ろしている温子がいた。

 

「そりゃあ爆発したら痛いでしょうし、煙で前が見えないからパニックになるでしょうが、まさか正直に真っ直ぐ逃げようとするとは思いませんでした」

 

淳子の意識は既に無かった。痛みによる気絶と判断されてすぐ担架に乗せられるが、ロープ爆破マッチのエキスパートが倒されたことで観客よりも古株選手達の方がざわついていた。